映画「夜明けの祈り」の前提知識について

「夜明けの祈り」という映画をみてきた。本日公開開始の映画のようだ。

正直言って、かなり難しかった。なにが難しいかというと、背景が難しいのだ。具体的には下記3つがよくわからなかったのである。

 

ポーランドの当時の状況

②修道女のいう罪

③主人公の職業的な立ち位置

 

この映画はフランスとポーランドの合作だそうなので、観客はフランスとかポーランドとかを想定しているんだと思われる。なので、ヨーロッパにおける第二次大戦の戦前・戦中・戦後の状況とかそんな感じのことは観客は当然持っている前提で作られているんだと思う。日本で義務教育を受けたら、第二次大戦では日本が敗戦したり、その前には原爆を落とされたり、空襲を受けたり、沖縄戦があったことや、戦後はGHQ支配下に置かれたりしていたことは小学生でも知っているし、そんな感じなんだろう。しかし、高校おいて授業を放棄し、学研マンガ「世界の歴史」を同級生から借りて受験対策をしたのみの私にとっては、戦後のポーランドの状況というのはちょっとハードルの高い話であり理解が追い付かないのである。そこで、ちょっと調べたりしてまとめたりして、事後的ではあるが「夜明けの祈り」を理解しようと努めてみることにした。

 ポーランドの当時の状況

私がポーランド第二次世界大戦で思い浮かぶのは、「地下水道」という映画と「戦場のピアニスト」という映画である。どっちもかなり前に観たきりでうろ覚えなんだが、とりあえずポーランド人がばんばん悲惨に死ぬとか街が瓦礫の山の廃墟みたいになってるみたいなイメージを覚えている。あと、ナチスポーランド侵攻により第二次大戦が開戦したのは高校の時、世界史の授業で聞いた気がする。(前述と矛盾するが、放棄したといっても多少は授業にでていたのである)

 

インターネットでざっと調べたところによると、第二次大戦開戦早々にポーランドはドイツに占領され、ドイツとソ連に分割されてしまったようだ。

 

「9月10日、ドイツ軍はポーランド主力を破り、わずか1ヶ月でポーランド占領に成功した。またソ連独ソ不可侵条約の密約にもとづき、東側からポーランドに侵攻し、ポーランドはドイツとソ連によって分割されてしまった。」

世界史の窓より http://www.y-history.net/appendix/wh1505-016.html

 

その後、レジスタンス活動を行っていたようで、1944年にはワルシャワ蜂起という大規模な蜂起を行っている。蜂起はドイツ軍により鎮圧されてしまうのだが、蜂起に対する報復としてワルシャワは徹底的に破壊されてしまったそうだ。

戦場のピアニストで観た廃墟はこの結果によるものだったらしい(基本的な知識がなかったので、戦場のピアニスト自体あまり理解できてなかったことが発覚した)。地下水道の方はそのワルシャワ蜂起自体を題材にした映画で、ポーランド人がばんばん死ぬという印象はまさにその通りで、ポーランド蜂起軍の死者数は約18万〜25万人と言われているそうだ。

 

最終的に第二次大戦でドイツは敗戦したわけだが、その後、ポーランドソ連の占領下におかれる。

夜明けの祈りは1945年のポーランドが舞台なのでちょうどこの頃の話なんだと思われる。映画では具体的な地名は出てこなかったが(たぶん、字幕に出てこなかっただけでセリフではあったのかもしれない)、実在したマドレーヌ医師の赴任先はワルシャワだったので、戦争が終結した直後のワルシャワとそこから車で行ける距離の修道院が舞台ということなんだろう。

 

現代的なイメージで言うと、戦争終結直後のイラクに派遣されている医師がエスコートもない中、夜抜け出して治安の悪い辺境の町に診察に行っているようなイメージになるのだろうか。そんでその地域では治安維持を本来担うべき占領軍が暴虐な行いをしているってかんじ。かなりあぶねーって感じである。映画の中でマルチダが上司に「ソ連軍に銃殺される可能性もあった!」と怒られていたが、そりゃそうである。その後、主人公はこっそり通い続けるために、自転車で修道院に通っている。自殺行為である。

 ②修道女のいう罪

検索していたら非常によい解説がでてきた。

映画をみていて、正直信仰の話というのがいまいちピンとこなかった。

罪はソ連兵だろとしか思えないのと「修道女が妊娠したのが世間にしれたら修道院が閉鎖されてしまう!」みたいなことを修道女の一人が言っていたあたりで、別に信仰の問題じゃなくて修道院の存続とか体面とかの話なのでは?みたいな気がしてしまっていたのである。修道女の中には体を触らせない・肌を見せないと決まっているから診察を受けないという人もいて、それは確かに信仰の問題なのかもしれないが、どうも釈然としない感じがあった。

しかし、この解説を見るとなるほど、そういうもんなのかと思えた。

 

この修道院の具体的な宗派名は映画ではでてこなかったが(服装とかで観る人がみればわかるんだろうけど)、監督がベネディクト派修道院で勉強したといってたのでベネディクト派がモデルなのかなと勝手に思った。ざっとインターネットで調べてみたところ、ベネディクト派というのは戒律が厳しくて有名なようだ。世界史の窓には『修道士は「祈り、働け」をモットーとし、「清貧・純潔・服従」を理想とする禁欲生活を送る。』 http://www.y-history.net/appendix/wh0604-003.html と書いてあった。理想に純潔が入ってるあたりで、修道女が妊娠してしまったってのはすごく罪って感じなのだろう。

 

でも、ここらへんの感覚を理解するってのはやっぱり私にはちょっと難しい。

現代だとどんな話に置き換えられるのか考えてみたがいまいちいい例が考え付かなかった。そもそもこのシスターたちはなぜ修道院に入ろうと思ったのだろうか?信仰心が篤かったからなのか、家が貧しかったからなのか、この時代のポーランドにおいて修道院ってどういう人が入るもんなんだろう。信仰心が篤い人だったらすごい罪の意識にさいなまれそうだが、生きるために仕方なく入った系の人だったら罪は感じなくて済むのかもしれない。シスターの中にはソ連兵を想っている人もいたから、いろんな人がいるのかもしれない。

 ③主人公の職業的な立ち位置

 「フランス赤十字は負傷したり収容所に入れられたりしていたフランス人を介護し母国に送り返すために派遣されていました。赤十字とはいえ、その対象はあくまでもフランス人だけ。」ということらしい。この記事に書いてあった。

人道的な面は置いといて、正直、そういう立場の人が現地の人を診ちゃうって職務上はけっこうまずいことと言えると思う。

職務を逸脱した行為だし、主人公がその過程でうっかりソ連兵に殺されたりしたら国際問題になる可能性がある。あと、休息時間に休息とらないで、業務時間に業務出来ますか?みたいな問題もあるし。主人公自身も危険を冒して修道院へきていると発言する場面があるが、治安的な意味だけでなく職業上の危険というのが大きいと思った。

 

修道院に通っていることがばれて上司に怒られるシーンで「本国に送還されたいか!」みたいなことを言われていた。現代的な感覚としては明らかに送還すべきだと思えるレベルであるが、送還されず始末書で済んだのは私の感覚がおかしいのか、当時は今よりそういうことに緩かったのかはわからない。もしかするとフランスでは緩いとかなのかもしれない。

 

パンフレットを読んだり、非常に雑ではあるが当時の背景とかを調べたりしたら、まあなんかちょっと内容の理解がすすんだ気がする。特に青木保憲氏の解説は非常に理解を助けてくれた。私は何も調べずにいきなり映画を見て爆死したが、これからご覧になられる方はぜひ読んでからいかれることをお勧めします。